ウェディングプランナーの荒井さやかさんは、カップルには、結婚式をすると決めた理由が必ずあると思っている。理由になった想いこそが、ふたりがゲストに伝えたいメッセージであり、ふたりらしい結婚式のタネだと理解している。だから、ふたりのなかから想いを見つけだし、言葉にして、それを伝える最善の方法を考えるのだ。そういうふうに、想いは結婚式という形を与えられる。具体的になにをするかというと、業界用語で「進行表」とよばれる、結婚式の脚本を書く。
ふたりのための脚本、それが、ふたりらしい結婚式を成功させる秘密である。結婚式の主役はもちろん新郎新婦だが、そのふたりを輝かせるために尽力するのが、ウェディングプランナーを中心としたチームだ。ドレスコーディネーターやフローリスト、会場スタッフ、司会者など結婚式に関わるスタッフは、全員がプロ。脚本があれば、それぞれの持ち場で、最高のパフォーマンスを見せてくれる。ポイントは、脚本のできばえと結婚式の成功は比例するということ。脚本が良ければ、チーム全体のパフォーマンスがさらに良くなるという。そのため、荒井さんは、とりわけ脚本づくりに力を注いでいる。それが、「脚本家」のゆえんなのだ。
では、良い脚本とは何だろう? それは、コンセプトがしっかりしている脚本だ。ここでいうコンセプトとは、結婚式のテーマのこと。これを確定してから、荒井さんは脚本を書く。
脚本の骨格となるコンセプトを決めるために必要なのが、カウンセリング。WHICH診断ように荒井さんの質問にカップルが答えているうちに、ふたりが本当に求めているものが見えてくるという。荒井流カウンセリングの優れている点が、無意識や本人たちが忘れていた記憶までも顕在化すること。だから、おしきせではない、ふたりが心から納得できるコンセプトをつくれるのだ。それに、心の奥に潜んでいた想いを言語化するということは、想いを意識できるわけで、意識できればコントロールもできる。ふたりは、想いを深め、深まる想いを感じながら、相手やゲストに思いをめぐらせ、式の準備を進められる。それは、新郎新婦を高砂に座る人形のような主役から、ゲストをもてなすパーティーの主役へと変える。それほどまでに大切なカウンセリングだから、住まいが遠くても、式までの期間が短くても、荒井さんは絶対にこの過程を省略しない。
こうしたステップを踏んで書かれる脚本に命を吹き込むものが、音の指示書である。これは、結婚式で使用する曲のシナリオだ。曲を再生するタイミングやボリューム、司会者コメントの入れ方に関する指示が、詳細に書かれている。荒井さんは、結婚式の音楽は、新郎新婦のキモチを代弁するものであり、背中を押すものであり、関係者の心の準備を促すものと考えている。そのため、選曲はもちろん、音の指示が重要なのだ。彼女が徹底的につくりこむ指示書は、秒単位で刻まれ、脚本によりいっそう躍動感を与えている。
準備の過程一つひとつが宝物になる、荒井さんと一緒にコンセプトからつくる結婚式。もし、ほかの誰とも違うふたりらしい結婚式を望んでいるなら、荒井さんに相談することからはじめてみるのもいいかもしれない。

その日、披露宴会場の入口では、新郎新婦のスキーウェアを着たマネキンがゲストを迎えました。
流木でできたコース看板に従って会場に入ると、そこは、さながらナイターのスキー場。
ライトに照らされて煌めくゲレンデが広がっています。
会場の中央には、5mにもなる本物の白樺がそびえ、
各テーブルには、冬木立を思わせるクロモジの木。
コットンの雪が降り積もり、実物のまつぼっくりがここそこに…。
会場内は、外の世界が見事に再現されていました。
ところで、なぜゲレンデ? その本当の意味は、まだゲストの誰も知りません。
新郎新婦がおつきあいを始めた日、星が輝いていたそうです。
結婚を決めた日、雪が煌めいていました。
ふたりの大切な日の「キラキラ」が、結婚式のテーマ。
テーブルのクロモジは、雪をイメージしたキラキラ光るキャンディで飾りつけられました。
しらかばの周りには、星の形のクッキーがちりばめられました。
そんな「キラキラ」をゲストにおすそわけしようと、ふたりは考えました。
席札の代わりに、くまのオリジナルイラスト入りの瓶を用意し、
思い思いに持ち帰ってもらえるようにしたのです。
披露宴の一年ほど前、ふたりはゲレンデにいました。
もちろん、スキーを楽しむために。
でも、彼にはもう一つの目的がありました。
彼女にプロポーズすると決意していたのです。
その1ヶ月前、彼は学生時代の先輩・荒井さやかに相談していました。
高層階のレストランでプロポーズをするためにふさわしい場所はどこかと。
荒井は「そのプロポーズが、彼女のいちばん喜ぶ方法だと思う?」とだけ答えました。
彼は自信をもってYESと言えませんでした。
そこで荒井は、彼女が喜ぶことを1ヶ月の間、真剣に考えるという宿題を出します。
そして彼は1か月後答えに辿り着きます。
「彼女がいちばん好きな場所であるスキー場でプロポーズをする」と。
そこからの彼はすごかった。
一生忘れることがないように、スキーをするたびに思い出せるように、
プロポーズの日は、自分の誕生日の前日でありスキー場オープンの日と決めます。
その記念の日にちを刺繍した、彼女の大好きなものと一緒に指輪を渡そうと考えます。
そして、会場の手配からアイテムの準備まで、すべて自力でやり遂げました。
必要なときは、新郎新婦にとことんがんばってもらう。それが、荒井流。
結婚式の準備をとおして、相手を深く理解しあい、強い夫婦になってほしいからです。
その願いは、プロポーズであっても変わりません。
披露宴会場に、「くまのキラキラものがたり」というVTRが流れました。
絵を描くのが得意な新婦が描いた2匹のくまが、ナビゲーター。
そのくまが指輪を磨いているところから、この物語は始まります。
それから、新郎新婦の職場をたどり、学生時代、幼少時代と順にさかのぼっていく。
ふたりの歴史をたどりながら、ふたりが幸せになった理由を探していくというストーリーです。
くまたちが探し集めた11個の思い出は、最後に一つの輪になり、エンゲージリングになりました。
それを持って、2匹が向かった先はスキー場のロッジ。そこでは……
まさに、新郎が新婦にプロポーズした瞬間が、会場の大きなスクリーンに映し出されました。
一生に一度の記念すべき瞬間を収めた実際の映像です。
実は プロポーズをする際、荒井は一つだけ新郎に提案をしていました。
「プロポーズの瞬間を映像に残しておきませんか」と。
スキー場のスタッフやカメラマンをまきこんで、新婦に気づかれぬように。
「その映像を結婚式で流し二人の原点を知ってもらいませんか?」と荒井はさらに提案します。
ふたりのはじまりの日を知ったゲストからの感動の溜息で、会場はより温かい空気に包まれました。
ここで、「くまのキラキラものがたり」の2匹のくまの正体も明らかになります。
新郎が指輪と一緒に贈った「彼女の大好きなもの」、それがテディベアだったのです。
それと同時に、ゲストは、会場がゲレンデを模していた意味と、
新郎新婦がゲストに伝えたかった感謝の気持ちを知ることになりました。
そして、大きな白樺の木の下にちりばめられたくまクッキーは、
その日一日ふたりを見守ってくれた大切なゲストへのプレゼントとなりました。
この披露宴には、荒井さやかのほかにもウェディングプランナーがいました。
そう、会場プランナーです。荒井と組むことによって、学ぶことが多かったといいます。
会場プランナーとフリープランナーが協力しあうことで、
よりよい結婚式をつくれると実感したよう。
いつか、会場のオプションに「フリープランナー」の項目が増えるかもしれない。
そんなハッピーな共同作業でした。
もう一組、ウェディングプランナーがいました。
それは、新郎新婦。「くまのキラキラものがたり」は、まさにふたりがプロデュースしたもの。
そんなふたりの幸せは、ずっとつづきます。
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麦嶋 潤希さん&伊達 春菜さん |
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ホテルライフォート札幌 |
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1月12日 |
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くまのキラキラものがたり |
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「ゲストが誰ひとり欠けても、今日のわたしたちはない。 私たちを支えてくれて、見守ってくれてありがとう」 というメッセージを ふたりの原点でもあるプロポーズのエピソードを使った ''仕掛け''でじんわり伝えていくこと。 |
私たちの結婚式はオリジナリティにあふれたものだったので、ものすごく準備が大変でした。共働きなので、準備は帰宅してからになるうえ、招待状や当日に使うアイテムなどの作成もしましたので。式の1ヶ月前などは睡眠時間が3時間という日もたびたびありました。でも、それだけ苦労をしたからこそ、結婚式を終えた後の充実感は、半端なものではありません。納得いくまで何度も何度も悩み抜いて完成させた結婚式は、自分たちの一生の思い出になるのは言うまでもなく、両親や親族、お世話になったゲストのみなさまの記憶にもしっかりのこるものになったようです。そんな理想どおりの結婚式ができたのも、さやかさんのおかげです。「新郎新婦が、がんばる」というスタンスを貫き、常に応援してサポートに徹してくれたからだと思っています。 |
どんなことが、どれだけできるのか。結婚式は未知なことばかりなので、相談もしたくて、さやかさんに依頼しました。結果的に、式場で用意されているプランだけでは叶わない結婚式になったと思います。式の進行、会場の装飾やペーパーアイテム…すべてが私たちにしかできないオリジナルなものでした。フリープランナーのさやかさんだからこそ、私たちだけの“ケッコンシキ”を実現できたと思います。 |
さやかさんは、結婚式に対する漠然としたイメージを、私たちの“ケッコンシキ”に変えてくれました。依頼していなければ、感動はしても堅苦しい式になってしまったような気がします。準備にあたって、たくさん話して、たくさん悩んで、たくさん笑いました。それが、“ケッコンシキ”につながったと思います。他のカップルも担当しているのに常に私たちに寄り添ってくれている、そんな安心感がさやかさんにはありました。 |
潤希さん&春菜さんより
